「性
同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第三条第二項に
規定する医師の診断書の記載事項を定める省令」に対するパブリックコメント
厚生労働省障害保健福祉部
精神保健福祉課企画法令係 御中
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第三条第二項
に規定する医師の診断書の記載事項を定める省令に関する意見募集について
当会(TNJ/TSとTGを支える人々の会)は1996年に発足した性同一性障害の当事者を中心とした自助・支援グループです。参加者を当事者やその家
族、パートナー、支援者(医療、法律関係者など)に限定した学習会・交流会や一般公開のシンポジウムなど2004年3月までに101回の催しを開催し、通
知送付リストには、これまでに約650名の当事者(一般の方を含めると約1200名)が登録しています。当会は、本省令の運用が当事者の人権に関わる重大
な問題であるという認識を持ち、以下の意見・要望を提出いたします。
1 情報公開の要求
本来、パブリックコメント募集の理念は、施策に関する基本的な計画等を立案する過程で、その計画等の案の趣旨・内容その他必要な事項を国民に公表し、国民
の意見を意思決定過程に的確に反映させる機会を確保することにあると理解しております。透明性のある情報公開のあり方は、この理念の根幹に関わる重大な問
題です。
しかし、平成16年3月1日付で公開された情報は「省令」(記載事項)案に限られ、省令の解釈や行政の運営方針に重大な影響を与える「通知」(記載要領)
案は含まれておりません。当事者の多くは、省令が実際にどう運用されていくのかに重大な関心を寄せながらも、この「通知」案の存在さえ知りません。
厚生労働省はパブリックコメントを募集するに当たっての、充分な説明責任を果たすべく、即時、この「通知」に関する情報を公開することを要求いたします。
当会では、関係者から個人的にお聞きすることのできた「通知」案の内容の一部を含め、省令に記された事項とその運用に係わる意見、要求、要望を以下に述べ
させていただきます。
2 「省令」(案)及び「通知」(案)に関する意見・要求・要望
(1)診断書に「社会的適合状況」の供述が求められる是非について
省令(案)には、医師の診断書の記載事項として「8
他の性別としての身体的及び社会的な適合状況」が挙げられています。特に「社会的適合状況」は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が規定
する審判の5条件として明文化されていない事項であり、これが盛り込まれていることについては、診断基準として必要であるとの判断がなされたものと想像い
たします。
しかし、精神障害の国際的診断基準であるICD-10並びにDSM-W、さらに日本精神神経学会の「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第二
版)」のいずれにおいても、性同一性障害の診断基準の中に「社会的適合」に該当するものは含まれておりません。社会的適合状況は、個々人のコントロールで
きる範囲を超えるものであり、当事者が置かれた厳しい社会的環境に大きく左右される問題です。また一般的にも、「社会的適合」は規範化できない性質のもの
です。これらの理由を踏まえ、この事項を削除するよう要求いたします。
(2)「本人以外の情報提供者など」からの聴取について
「3 家庭環境、生育歴及び生活歴」「4 生物学的な性別としての社会的適合状況」「8
他の性別としての身体的適合状況・他の性別としての社会的適合状況」の供述要領として、「本人以外の情報提供者など」から「直接聞き取った供述を示すこ
と」が求められることを危惧しております。
家族を含む他者との関係性や状況は個別の事情によって大きく異なり、性同一性障害に関して、周知の場合もあれば、まったく知らせていない場合もあります。
しかし、いずれの場合においても最大限に尊重されるべきは、「いつ誰にどのように性同一性障害について伝えるか」(カミング・アウト)に関する本人の自己
決定です。本人以外の情報提供者などからの聞き取りが求められることは、カミング・アウトを強要することとなり、プライバシーの侵害につながります。ま
た、「社会的適合状況」は規範化されうるものではありません。判断基準が曖昧な上、本人との関係性によっては、家族やその他第三者が適合状況について故意
に不利な証言をすることも考えられ、判断材料としての有効性も認められません。
「必ず」にせよ「可能な範囲で」にせよ、家族やその他第三者から聞き取った供述を記載する必要性が盛り込まれるべきではないと考えます。むしろ逆に、省令
及び通知の解釈をめぐって混乱を来たさぬよう、家裁の審判の場で本人の意思に反して、「家族」や「友人・知人や同僚などの第三者」からの証言が求められな
いよう配慮すべきである」、などの一文が盛り込まれることを要求します。
(3)海外の機関やガイドラインの標準的手続き外で治療を受けた者について
「7
医療機関における受診並びに治療の経過及び結果」については、その要領において、治療に携わった医師の氏名及び所属機関、治療が行われた期間及び治療の内
容、治療の必要性及び目的、治療の結果及びその結果についての意見といった記載が求められることが考えられます。
海外の機関やガイドラインの標準的手続き外で治療を受けた場合には、ホルモン療法や手術について、治療に携わった医師の氏名や薬剤の名称などについて正確
な情報を得ることが難しいケースもあり、その詳細が把握不可能であったり、当時の投薬記録や手術記録が入手不可能であったりすることが大いに考えられま
す。
日本精神神経学会による「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第二版)」においても、このような形で過去に治療を受けた者を対象として排除す
ることなく、本人が求める場合には、ガイドラインに沿った治療をその途中からであっても進められるような配慮がなされています。
記載要領の記述においては、単に「入手することが不可能である場合にまで手術記録の添付を義務付けるものではない」ことを明記するだけでなく、ホルモン療
法や手術療法の経過に関わる記載事項について、正確な記述が困難な場合にまでこれを義務付けるものではないこと、かつ診断書の作成において海外の機関やガ
イドラインの標準的手続き外で治療を受けた当事者を排除するものでないことを明記されるよう、要望いたします。
以上
2003年3月15日
TSとTGを支える人々の会(Trans-Net Japan:略称TNJ)
運営メンバー一同
池上文
北小路康美
虎井まさ衛
西本洋子
野宮亜紀
東優子
森野ほのほ(主宰)
森本エム
山路明人
山口いさえ (50音順)
連絡先:〒163-8696 新宿郵便局留 TNJ (TSとTGを支える人々の会)
電子メール mail@tnjapan.com ファクス 020-4665-6176
http://www.tnjapan.com/
賛同者
(略)
賛同団体
性は人権ネットワーク Est Organization
(代表 真木柾鷹, 〒010-8691 秋田中央郵便局私書箱32号)
子を持つトランスの会「クローバー Trans Mother & Father Community」
(代表者 藤生貴史, 〒206-0812 東京都稲城市矢野口郵便局留)
以上
<別紙1> 参加者から寄せられた他の意見(当会にて代理提出する意見)
(略)
<別紙2> 参考資料:性同一性障害の診断基準
ICD-10
DSM-IV TR
性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第2版)
(略)
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