日刊スポーツ1999年4月3日号21面記事
 「4月4日は"オカマの日"」への抗議及び同記事の訂正に関する要求

「TSとTGを支える人々の会」では、1999年4月4日、日刊スポーツ新聞社に、下記の「抗議及び同記事の訂正に対する要求」を提出しました。 
 



前略

 当会はトランスジェンダー(性同一性障害など、戸籍上・出生上の性別に違和感を抱き、これらの性別と異なる性別での生活を営む、もしくは望む人々)の自助・支援グループです。
 性別再指定手術の実施に関する1996年8月の埼玉医科大学倫理委員会の答申発表を契機として発足し、以降2年半に渡り、医療関係者、法律関係者、報道機関等と緊密に連絡を取りながら、学習会や一般公開のシンポジウム、資料集の発行を行なっております。通常の活動ではトランスジェンダーの当事者やその家族、支援者を中心に参加資格を限定し、1999年2月までに約500名の参加者(一般公開時を除く人数)を得ています。

 昨日、当会の活動に関連した貴社『日刊スポーツ』紙1999年4月3日号21面の記事を拝見致しましたが、この中において事実と異なる内容が報道され、かつ不適切な表現がなされていることについて、関係者一同大変困惑しております。
 特に、該当の記事が当会の活動や当事者の精神面に与える影響は無視できないと考えられるため、遺憾ながら同記事への抗議及び同記事の訂正に対する要求を下記別紙としてご送付申し上げる次第です。

 突然のご連絡ではありますが、ご査収の上、適切な対応を頂けるようお願い申し上げます。

草々
1999年4月4日
日刊スポーツ新聞社 殿
TSとTGを支える人々の会
運営委員一同
 


送付文書 
・日刊スポーツ1999年4月3日号21面記事
 「4月4日は"オカマの日"」への抗議及び同記事の訂正に関する要求  1通
以上
 

本件に関する連絡先:
 〒156-0044
 東京都世田谷区赤堤ニ郵便局留「TSとTGを支える人々の会」
 tel. 0903-50-64843(森野)


 1999年4月4日
日刊スポーツ新聞社 殿
TSとTGを支える人々の会
運営委員一同

日刊スポーツ1999年4月3日号21面記事
「4月4日は"オカマの日"」への抗議及び同記事の訂正に関する要求
 

 本文書は、性同一性障害及びトランスジェンダーの自助・支援グループである「TSとTGを支える人々の会」運営委員会(以下、当会)が、日刊スポーツ新聞社(以下、貴社)に対し、貴社の発行する『日刊スポーツ』紙1999年4月3日号(第7版において確認)の21面に掲載された記事「4月4日は"オカマの日"」(以下、該当記事)に関する抗議を行い、かつ、同記事の訂正記事の掲載を求めるものです。
 以下に、その背景となる事実と該当記事の内容、抗議及び訂正に関する要求の内容等を記します。


1 背景となる事実
 当会はトランスジェンダー(性同一性障害など、戸籍上・出生上の性別に違和感を抱き、これらの性別と異なる性別での生活を営む、もしくは望む人々)の自助・支援グループであり、性別再指定手術の実施に関する1996年8月の埼玉医科大学倫理委員会の答申発表以降2年半に渡り、医療や法律関係者などと連携し、報道機関等とも情報交換を行いながら、学習会や一般公開のシンポジウム、資料集の発行を行なってきた。
 1999年2月、当会ではトランスジェンダーの人権問題に対する意識を喚起することを目的として、日本記念日協会(代表 加瀬清志氏)に対して、4月4日を「トランスジェンダーの日」とする旨の申請を行なった。申請の内容は以下の通りである。
 

○申請者氏名 「TSとTGを支える人々の会」(TNJ) 運営委員一同

○登録希望記念日名 和文 トランスジェンダーの日
          英文 Transgeder's Day 

○記念日の日付     4月4日

○記念日の由来 
 近年になって、従来は当たり前のものとして捉えられてきた男性と女性という二つの性別について、社会的な役割の見直しや、性別とは何かという常識そのものを問いなおす動きが活発になっています。
 「トランスジェンダー」とは、自分の身体の(解剖学的な)性別やそれに属する社会的、文化的性別に対して強い違和感や不快感を感じている人たちの総称です。昨年秋の埼玉医科大学での性転換手術実施で注目を集めた「性同一性障害」の当事者も、この中に含まれます。
 小会は、性同一性障害やトランスジェンダーの当事者や支援者を中心に、交流や情報交換、学習、医療的・社会的な対応の改善などを目的として活動する自助・支援グループです。参加者は、99年2月現在、約500人(公開行事を除く)にのぼります。
 性同一性障害やトランスジェンダーの存在や、性転換者の戸籍の性別訂正が認められないなど、その抱える社会的な問題は、まだまだ、一般には知られていません。女の子のお祭り、3月3日の桃の節句と、男の子のお祭り、5月5日の端午の節句の間にある4月4日を、「性別とは何か」、「男と女」だけでは捉えきれない性の多様性について社会的な理解を深めて頂く日にしたいと思います。

○制定年月日 1999年2月

○制定者名 「TSとTGを支える人々の会」運営委員一同
 

 上記の申請に対し、1999年2月27日、日本記念日協会より当会に対し、上記申請を受理する旨の回答がなされた。この認定に併せて当会では、労働問題の専門家や法学者らによる公開シンポジウム「トランスジェンダーと人権」を1999年4月4日に実施した。

2 該当記事の内容
『日刊スポーツ』紙1999年4月3日号(第7版において確認)の21面において、以下の内容が4段組にて掲載された。
 

○見出し 4月4日は"オカマの日"
     桃と端午にはさまれて
     日本記念日協会が認定
     正式にはトランスジェンダーの日

○記事内容(全文)
 4月4日は"オカマの日"。性同一性障害など、自分の性別への違和感を感じているトランスジェンダー(trans gender)の人たちへの理解を深めようと、桃の節句の3月3日と、端午の節句の5月5日の間にある4月4日が、日本記念日協会から"オカマの日"として認められた。正式名称は「トランスジェンダーの日」。
 昨年10月、埼玉医大が国内ではじめて正式な性転換手術を実施したことをきっかけに、全国各地の支援団体の交流が始まるなど、トランスジェンダーの人たちや支援者の活動は徐々に活発化している。
 オカマの日が公式に認められたことで、ニューハーフのタレントベティは「非常にうれしく信じられない気持ち。私のお店『ベティのマヨネーズ』の開店日が4月4日で、毎年その日は勝手にオカマの節句パーティをしていたのに、これで堂々と世間にも言えます。今年も4月4日にはカマめしを胸張って食べます」と、喜びいっぱい。ただ「カレンダーには何て載るのかしら。恥ずかしいわね」とちょっぴり戸惑いも見せていた。
 
 

3 該当記事に対する抗議
 該当記事は、以下の点で事実を歪曲し、当会と日本記念日協会に対する誤解を招き、当会と日本記念日協会の信用を傷つけ、かつ当会に参加するトランスジェンダー(性同一性障害を含む)の当事者の感情を傷つけるものである。

(1)事実に反する内容を報道するものである
 当会の申請内容及び日本記念日協会の認定内容(当会の申請内容と同一)の中には、4月4日を"オカマの日"と位置付ける内容は一切記載されていない。これらの申請及び認定においては「トランスジェンダーの日」が唯一の名称である。
 該当記事には「正式名称は『トランスジェンダーの日』」とする記述があるが、これはむしろ本来の名称以外に略称や通称として"オカマの日"が申請または認定されているとの誤解を招くものである。
 特に、見出し及び冒頭の文章、さらに最初の段落中の「(前略)日本記念日協会から"オカマの日"として認められた」では、4月4日が"オカマの日"との名称で認定されたとする、事実に反する記述が掲載されている。
 該当記事では"オカマの日"の文言について、ダブルコーテーション(""記号)を用いているが、その意図は読者に対して明示されておらず、この表現のみでは"オカマの日"の名称が申請または認定されているとの解釈を免れることはできない。
 なお、字義における「トランスジェンダー」と「オカマ」の対照については次項で述べる。

(2)不適切な表現により、当会の参加者の感情を傷つけるものである
「オカマ」という言葉は、一般の非当事者がこれを用いる場合、トランスジェンダー(性同一性障害の当事者を含む)と同性愛者を混同して扱うとともに、この両者を併せて戯画化または蔑視する目的で使用されることが多い。このためトランスジェンダーの中には、「オカマ」という言葉に抵抗を感じるものが多い。特に、トランスジェンダーであることを周囲に知られずに、望みの性別で職を得て平穏に生活したいと考え、また実際に生活している当事者に対しては明確な差別表現ともなり得るものである。
 一方で、「オカマ」という言葉は、風俗関連産業に従事するトランスジェンダー(俗称ニューハーフ)や同性愛者の間で自主的に用いられてきた経緯がある。また、米国の同性愛者は元来蔑称であった「クイア(変態)」という表現を、批評的意図を込めて用いることで肯定的表現に変えてきた歴史を持っている。従って、このような使われ方がなされる限り、「オカマ」という言葉そのものの使用が一律に否定されるべきものではない。
 しかし、該当記事は上記のような背景を無視して、「トランスジェンダー」と「オカマ」を表現上同一視している。
 該当記事では、風俗関連産業に従事する当事者のコメントを"オカマの日"という表現を好意的に受け止めるものとして引用している。同コメントそのものの内容については否定されるべき点はないが、同コメントの意図は上記で述べたような背景と活動理念を持つ当会の意図及びそれを反映した日本記念日協会の意図とは明らかに異なるものであり、日本記念日協会の制定による「トランスジェンダーの日」を"オカマの日"と呼び替える一般的な根拠とはならない。
 該当記事における「オカマ」という言葉の用法は、当会に参加する、社会生活における様々な差別に苦しむトランスジェンダーの当事者の感情を傷つけるものであり、かつ(1)で述べた誤解から当会の信用を著しく損なうものである。

(3)該当の記事が関係者への確認を行うことなく執筆され掲載されている
 当会または日本記念日協会に対して直接の問い合わせを行い、事実を確認した上で該当記事を執筆すれば、上記(1)(2)の問題は未然に防ぐことができた可能性がある。また、大部数を発行する新聞の記事を掲載する上では、事実の確認は必須と考えられる。
 しかしながら、当会が当会運営委員及び日本記念日協会に対して確認した結果では、該当の記事に関して、貴社からの問い合わせや事実確認は全く行なわれていない。

 上記の理由から、当会は該当記事に関して、貴社に対して強く遺憾の意を表明するとともに、本文書によって抗議を行なうものである。

4 該当記事の訂正に関する要求
 当会は貴社に対し、上記3で述べた抗議理由をもとに、以下の3点を要求するものである。

(1)該当記事の訂正を「日刊スポーツ」紙上に掲載すること
「4月4日が、日本記念日協会から"オカマの日"として認められた」とする記事内容が誤り、または誤解を招く不適切な記述であったこと、及び本件に関する日本記念日協会の認定においては「トランスジェンダーの日」が唯一の名称であることの2点を「日刊スポーツ」紙上の訂正記事として掲載すること。

(2)当会及び日本記念日協会に対し、訂正記事の掲載を通知すること
(1)の訂正記事の掲載にあたって、訂正記事の内容と掲載日を事前に当会及び日本記念日協会に対し通知すること。

(3)今後、トランスジェンダー(性同一性障害を含む)の人権に配慮した報道を行うこと
 今後、トランスジェンダー(性同一性障害を含む)の当事者が置かれた状況について、一面的な知識だけでない正確な理解のもとに報道を行なうこと。また、報道の内容がトランスジェンダーに対する偏見を助長し、誤解を招くことのないよう十分に配慮すること。

 特に、(1)(2)については明確な回答と迅速な対応を求めるものである。


 本文の主旨は以上の1〜4に述べた通りですが、最後に触れた通り、この問題は該当記事の内容に留まらず、性同一性障害及びトランスジェンダーに対する貴社の見識が問われるものであると考えられます。性同一性障害及びトランスジェンダーを面白おかしい存在、性風俗の分野の出来事として捉える限り、同じような不適切な記事が掲載される危険があると考えます
 従いまして、当会としては性同一性障害及びトランスジェンダーに関する問題が深刻かつ重大な人権問題であることを理解していただき、今後この分野の報道を行う際に十分な配慮をして頂くよう、強くお願いするものです。

以上
 
 

付記1 当会の活動について
 当会の参加者は主にトランスジェンダーの当事者やその家族、支援者が中心であり、1999年2月までに約500名の参加者(一般公開時を除く人数)を得ている。運営は主宰者1名を含む5名の運営委員(1999年4月1日現在)により行なわれている。
 性別再指定手術の実施に関する1996年8月の埼玉医科大学倫理委員会の答申発表を契機として発足し、以降2年半に渡り、医療や法律関係者などと連携し、報道機関等とも情報交換を行いながら、学習会や一般公開のシンポジウム、資料集の発行、海外文献の翻訳、当事者に対する弁護士の紹介等を行なっている。

付記2 トランスジェンダーの当事者が置かれた状況について
 当会の参加者からの意見収集、相談への対応、質問紙よる調査等により、トランスジェンダーの当事者が被っている社会的差別が明らかになっている。特に、就労時の差別(就職の困難、低賃金、待遇の悪化、解雇など)は大きな問題となっている。強い性別違和に悩む当事者はこれらの状況において精神的に疲弊し、深刻なケースでは自傷行為に至る場合もある。
 また、トランスジェンダーに関する知識が、一般の非当事者のみならず、医療関係者や当事者自身においてさえ十分でなく、依然として誤解や偏見が満ちた状況にある。例えば、同性愛との混同、性的な趣味嗜好や性風俗との混同、精神分裂病との混同が多く、当事者を取り巻く環境を改善する上で障害となっている。
 
 



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